AIネイティブなマーケティング組織は、それを支えるエージェンシーにとって何を意味するのでしょうか。端的にいえば、クライアントはごく少人数のチームを維持し、独自のデータレイヤーとAIレイヤーでマーケティングを運営し、実行作業の工数に対してエージェンシーにお金を払うのをやめます。代わりに買うのは、システム、データの基盤整備、正確性のチェック、そしてモデルには提供できない判断です。
今月、これはもはや理論ではなくなりました。Marketing Diveは、Advertising Week New Yorkのパネルについて報じています。そこでLiquid Deathのチーフメディア・デジタルコマースオフィサー、Benoit Vatereは、エージェンシーのPower Digital Marketingと構築したAIオペレーティングシステム上で、メディアとリテールメディアの最適化を行っていると説明しました。同ブランドは、Omegaと呼ばれるこのシステムを約3週間で17バージョンまで改良してきました。目標は、「社内わずか2人」で「かなりの規模の予算」を運用することです。
たった2人です。エージェンシーを経営しているなら、この数字は次の戦略合宿で議題にする価値があります。
AIネイティブなマーケティング組織とは何でしょうか?
Power DigitalのCEO、Jeff Masonは、パネルで役立つはしごを示しました。彼によれば、ほとんどのブランドはAIキュリアスの段階にあり、ChatGPTやClaudeといったフロンティアモデルを自社データの一部とともに使っています。次の段はAIアシステッドで、全従業員が使える独自のインテリジェンスレイヤーを持ち、それがチームの働き方を学ぶにつれて改善されていきます。最上段はAIネイティブで、その上にオーケストレーションレイヤーを重ね、仕事そのものがカスタムアプリケーションのなかで動きます。
Marketing Diveの報道によれば、Masonの見解は、フロンティアモデルだけではもはや誰も優位に立てないというものです。競争優位を守る堀となるのは、自社データの上に構築するインテリジェンスとオーケストレーションであり、その堀は時間とともに深くなっていきます。
Liquid Deathは、少し意外な代表例です。同社の広告クリエイティブはAIデータセンターを批判しています。それでもVatereは、AIのおかげで10億ドル規模のこの飲料ブランドが「無駄なく引き締まった」状態を保ち、ノンワーキングメディア(媒体費以外の間接費)への多額の支出を避けられていると言います。
Liquid Deathは、エージェンシーから実際に何を買っているのでしょうか?
よく見ると、エージェンシーは消えていません。居場所を移したのです。Power Digitalは8月、独自のAIエコシステムを発表しました。インテリジェンスレイヤーのIris、オペレーティングシステムのOmega、そしてクリエイティブ・インテリジェンスレイヤーのCreative Affinityです。Omegaは、エージェンシーのエンジニアリングとクライアントのデータやプロセスを組み合わせたものです。
目に見える変化はサイクルです。以前は週1~2回見直されていたリテールメディアのキャンペーンが、いまでは毎日最適化されています。Vatereは、Slackを使ったり、クエリを書いたり、チームに報告の投稿を頼んだりする代わりに、自分で状況を確認して社内に共有できると言います。ほかのマーケターへの彼のアドバイスは、スプレッドシート漬けの生活をやめ、5分以上かかるタスクはすべて自動化することです。
つまりクライアントが買っているのは、メディアプランと月次資料ではありません。月次資料を不要にする仕組みと、それを構築し、調整し続ける人材なのです。
Masonの3つの段階を、エージェンシー側の視点から読み解くと次のようになります。
| クライアントの段階 | どのような状態か | エージェンシーから買わなくなるもの | より多く買うもの |
|---|---|---|---|
| AIキュリアス | チームがChatGPTやClaudeを自社データの一部とともに使っている | 現時点ではわずか。デスクリサーチや初稿の料金には値下げ圧力がかかると予想される | ユースケースの選定、ガードレール、トレーニングの支援 |
| AIアシステッド | 全従業員が問い合わせられる独自のインテリジェンスレイヤー | 月次レポート、定型的な分析、進捗報告 | データの一元化、チューニング、レイヤーが示す内容の解釈 |
| AIネイティブ | オーケストレーションレイヤーがあり、仕事がカスタムアプリケーションのなかで動く | 手作業の最適化、バージョン展開、実行作業の工数の大半 | システムの設計と保守、アウトプットの確認、アイデア、文化面の判断 |
なぜテクノロジーがすべてを決めているように感じるのでしょうか?
社会学には、技術決定論という古い考え方があります。テクノロジーが組織や社会の変化を左右し、人はそれに適応するだけだという考えです。いまエージェンシーで交わされるAIをめぐる議論の多くは、まさにこの空気をまとっています。ツールが登場し、クライアントが組織を再編し、エージェンシーが後追いで対応する、というものです。
Liquid Deathの事例は、それに対する格好の反証です。2人という人数を選んだのはテクノロジーではありません。マーケティングのリーダーがそれを選んだのです。そしてエージェンシーは、システムの供給業者ではなく、システムを設計するエンジニアになることを選びました。同じテクノロジーでも、決断が違えば、エージェンシーの経済性は大きく変わります。
私たちが立ち返り続ける原則があります。データを人間性と結びつけることで、混沌から明確さが生まれる、というものです。毎日最適化されるリテールメディアの仕組みは、2人では読み切れないほど多くのシグナルを生み出します。それが何を意味するのか、どのシグナルが重要なのか、数字がフィードの気まぐれではなく人々の本当の変化を表しているのはいつなのかは、やはり誰かが判断しなければなりません。その「誰か」の役割は、エージェンシーが担えるのです。
価値を失うエージェンシーのサービスと、価値を高めるサービスはどれでしょうか?
まずは雑務から見ていきましょう。最もリスクにさらされているのは、誰もそれをやりたくて広告業界に入ったわけではない仕事です。月次レポート、進捗会議、予算管理、手作業でのリサイズ、手作業でまとめる競合調査などです。AIネイティブなクライアントでは、それらはシステムのなかで継続的に処理され、そのためにリテイナーを払う人はいなくなります。
価値が高まるのは、それほど目立たないものの、より守りやすい仕事です。
- データの一元化。パネルで最初に挙がったアドバイスは、データを一元化することでした。ほとんどのクライアントのデータは、いまも異なるチームが管理する十数か所に散らばっています。
- アウトプットの確認。パネルではまた、AIエージェントのアウトプットは正確性を確認しなければならないとも指摘されました。システムの結論を監査できるエージェンシーは、クライアントにとってのセカンドオピニオンになります。
- システム設計。何を、どの順番で、どのルールのもとで自動化するかを決めるのは戦略の仕事であり、請求できる仕事です。
- クリエイティブと文化面の判断。モデルは、すでに機能したものに向けて最適化します。次に何が生まれるべきかはわかりません。
独立系エージェンシーはどのように備えるべきでしょうか?
- リテイナーをタスク単位で監査する。定期的な納品物をすべて書き出し、まずまずのAIレイヤーを持つ2人のクライアントチームが1年以内に自分たちでこなせるようになるものに印をつけます。
- 5分ルールをまず自社に当てはめる。5分以上かかる社内タスクは、クライアントに指摘される前に自動化しましょう。
- クライアントのデータの一元化を申し出る。地味な仕事ですが、ほかのすべてがそれに依存しており、それを担う者は代わりがききにくくなります。
- 検証の習慣を築く。「これが正しいとどうしてわかるのか?」を定例の議題にし、AIの結論がクライアントに届く前に元データまでたどりましょう。
- 成果と仕組みを軸に価格を見直す。クライアントのサイクルが毎日になるなら、工数で測る月額リテイナーはどちらにとっても理にかないません。
- 構築するか、購入するか、提携するかを決める。Power Digitalは独自のスタックを構築しました。ほとんどの独立系エージェンシーにはエンジニアリングチームを抱える資金がなく、そこで機能を購入するという選択肢が出てきます。
独立系エージェンシーは独自のAIオペレーティングシステムを構築する必要があるのでしょうか?
その必要はありませんが、それがもたらす機能は必要です。Masonの主張は、フロンティアモデルはいまや前提条件であり、優位性はその上のレイヤーにあるというものです。ホールディングネットワークや資金力のあるデジタルエージェンシーにとって、そうしたレイヤーの構築は設備投資プロジェクトです。40人規模の独立系エージェンシーにとっては、クライアントが本来依頼している仕事から気をそらすものにすぎません。
その差こそが、Defyプラットフォームが存在する理由です。Defyは、ホールディングネットワークが構築してきたのと同じ分析力とAI機能を、開発コストや保守の負担なしに独立系エージェンシーに提供します。競合とオーディエンスのインテリジェンスをリアルタイムで提供し、同僚に話しかけるようにClaude上で質問でき、反復的な納品作業はエージェントが担います。
どの道を選ぶにせよ、クライアントより先に選びましょう。AIネイティブなクライアントは、エージェンシーが追いつくのを待ってはくれません。すでに追いついているエージェンシーを起用するだけです。



